黒猫眠り姫〔上〕[完]

「こんな夜遅くに一人で行くつもりなの?」

湊がそう言って近づいてきた。

「湊、仕事大変だから。」

「駄目だよ。夜の一人歩きはさせない。」

ぎゅっと抱きしめられた。

ハグをよくする人だとは思ってたけど。

「一緒に行こう。」

どんなに我儘言っても湊は嫌な顔しない。

それ以上にあたしを大事にしてくれる。

「いいの?」

締め切りで忙しいと言ってた湊。

「当たり前だよ。

気分転換にもなるからね。」

手を差し出してきた湊に躊躇いもせずに

手を伸ばした。

部屋のキーを持ち、家を出た。

ラフな格好をしている私たち。

湊はホントに完璧な人。

何を着ててもカッコいい。

「夜に出かけるなんて思わなかったな。」

最近家にこもりっぱなしな気がする。

湊、息が詰まらないかな?

こうやって少しは外の空気を吸うのも

いい気がする。

「我儘言って良かった。」

だって、湊が外に出るきっかけを作れた。

「えっ?」

「ねぇ、湊。」

あたしは今がすごく幸せで、

このままで居たいと思ってるよ。

「ん?」

「星が綺麗だよ。」

夜空に広がる星屑。

綺麗でどんなに小さな星でも自分より

輝いているそれを羨ましく思う。

「もう夏だからね。」

「そうだね。」

すっかり夏らしさを見せる空に

胸を躍らせた。

雨もだいぶ降らなくなった。
< 306 / 344 >

この作品をシェア

pagetop