黒猫眠り姫〔上〕[完]
「こんな夜遅くに一人で行くつもりなの?」
湊がそう言って近づいてきた。
「湊、仕事大変だから。」
「駄目だよ。夜の一人歩きはさせない。」
ぎゅっと抱きしめられた。
ハグをよくする人だとは思ってたけど。
「一緒に行こう。」
どんなに我儘言っても湊は嫌な顔しない。
それ以上にあたしを大事にしてくれる。
「いいの?」
締め切りで忙しいと言ってた湊。
「当たり前だよ。
気分転換にもなるからね。」
手を差し出してきた湊に躊躇いもせずに
手を伸ばした。
部屋のキーを持ち、家を出た。
ラフな格好をしている私たち。
湊はホントに完璧な人。
何を着ててもカッコいい。
「夜に出かけるなんて思わなかったな。」
最近家にこもりっぱなしな気がする。
湊、息が詰まらないかな?
こうやって少しは外の空気を吸うのも
いい気がする。
「我儘言って良かった。」
だって、湊が外に出るきっかけを作れた。
「えっ?」
「ねぇ、湊。」
あたしは今がすごく幸せで、
このままで居たいと思ってるよ。
「ん?」
「星が綺麗だよ。」
夜空に広がる星屑。
綺麗でどんなに小さな星でも自分より
輝いているそれを羨ましく思う。
「もう夏だからね。」
「そうだね。」
すっかり夏らしさを見せる空に
胸を躍らせた。
雨もだいぶ降らなくなった。