ノラネーコだんしゃく
「今だ、つかまえろ!」

市長が、となりにいたパン屋の見習いのしりをひっぱたいたんで、みんな、顔を見合わせながらもだんしゃくをとりかこんだ。

周りを男たちに囲まれ、後ろはうんが。だんしゃくにはもう、にげ場はなかった。血をながしただんしゃくは、じっとそれを見ていた。

とうとう、だんしゃくがつかまるのか―。

だれもがそう思った、その時。どよめきが起こった。

だんしゃくは、くるりと後ろをふり向くと、ビョーン!とうんがに向かってジャンプしたんだ!

ちょうどいい場所でそれを見ていた知り合いのウエイターは、そのときのだんしゃくのことを、
「ほんとに、鳥みたいだったんだ。羽を広げて、大空に飛んでいくのかと思った。見事なジャンプだったよ。なんか、自由への大飛行、って感じ」
と何度も言っていた。まあもちろん、だんしゃくはネコなのだから空を飛べるわけもなく、そのあとだんしゃくは、ジャボーン!と見事な水しぶきをあげてうんがに落ちていった。

「大変だ!だんしゃくがうんがに落ちた!」

橋の上の男たちは、手すりにつめよってだんしゃくの姿を探した。

知ってるかい、ネコは泳ぎが苦手なのさ。いくらだんしゃくでも、だんしゃくはネコだからね。それに、頭をけがしているんだ。放っておいたら、おぼれて死んでしまう。泳ぎのうまい男たちが何人か、上着を脱いでうんがにとびこんだ。

しばらくして、だんしゃくはぶじにうんがから引き上げられた。

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