ノラネーコだんしゃく
で、そうしているうちに、だんしゃくはお目当てのアジをくわえて、よゆうしゃくしゃくの表情でスカートの中から出てきた。(女たちはその後もずっとさわいでいた。)

それを一番早くに見つけたのは、魚屋のおやじさ。町中にこだまするような大声で、
「あそこにいるぞ!」
と叫んだ。それを合図に、デッキブラシだのこん棒だのパチンコだの虫取りアミだのを手に、男たちがいっせいに飛びかかった。辺りは土げむりがもうもう、前も見えない。それなのにみんな、自分の持ってるものをぶんぶんふりまわすもんだから、あーあー、もうちつじょもなにも、あったもんじゃない。

「つかまえたぞ!」とパン屋のおやじが叫べば、

「かんべんしてくれよ、そりゃあおれの足だよ!」と、毛もじゃで有名な、酒場のだんな。

「こっちにいたぞ!」と金物屋のせがれが叫ぶと、

「いてて!おれの頭をつかんでんのは誰だい?」と横丁のごいんきょ。

しかも、積んであったツナ缶の山を誰かがけっとばしたらしく、ツナ缶が広場中にごろごろ転がりだした。女も子どももやじうま連中も、あっちでスッテン、こっちでドタン!もう見物どころじゃない。

そのとき、さわぎの真ん中から、「キャー!助けてぇ!」って女みたいな声があがったんで、みんながわれに帰って見てみると・・・

みんな、あんぐり口を開けた。

「わしじゃ、わし!」

なぜだかそこには市長がこてんぱんになっていたんだ。

この日のためにあつらえた背広は、焼く前のムニエルみたいに土だらけになっていて、片方の肩も完全にとれちゃっていた。ひん曲がったメガネを片手で押さえながら、鼻からじょうきを出して怒っていた。ありゃりゃ・・・

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