i want,
「…ヒカル」

ヒカルだけでいい。
ヒカルだけでいいよ。


「抱き締めて」


赤くなった顔を見られたくなくて、あたしは俯いたままそう呟いた。
視線の先のヒカルの爪先が、あたしの方を向く。

しばらく雨の音だけが響いていた廊下に、ヒカルの上靴の音がキュッと響いた。

ヒカルの肩に、あたしのおでこが当たる。その腕がゆっくり、あたしの頭を包みこむ。

苦しさは増す一方で、救いを求める様に、あたしもヒカルの背に腕を回した。

「…ヒカル」
「ん?」
「ヒカルは…変わらんよね?」

少しの沈黙の後、ヒカルの腕が答えた。ぐっと力が入る。

「…あおに対してだけは、変わらんよ」

耳元で聞こえるヒカルの声は、近すぎてくぐもって聞こえた。


「あおだけは…なくしたくないけぇ」


…泣きそうになったことは、抱き合っていたおかげで気付かれずにすんだ。

ただあたしも、ヒカルの表情は見えなかった。


見えなかった。
















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