i want,
「…キスも久しぶりじゃったの」
口の端を上げて、意地悪そうにそう呟くヒカル。
あたしは急に恥ずかしくなって、思わず視線を反らした。
多分ヒカルは、いつもと同じ余裕の表情であたしを見ているだろう。
悔しいけど、敵わない。
「…あ、また降ってきたわ」
ヒカルの声で、俯いていた顔を上げた。
座ったまま見上げる空から、霧雨がまた降りだしていた。
「梅雨かのぉ」
「早いじゃろ、まだ」
「ほうけ」
ヒカルは窓を見上げながら、指でそれをなぞる。水滴のついた窓ガラスに、ヒカルの指の痕がカタツムリの動いた痕の様に残る。
「あおの顔」
「あたしそんな不細工じゃないし」
「ほうけー?そっくりじゃあや」
「失礼なねっ!」
ヒカルの描いたうねうねは、不細工な人の顔の様に見えていた。あたしも対抗してヒカルを描いてやろうかと思ったが、残念ながら美術は得意じゃない。
仕方なくあたしは、指でヒカルの名前をなぞった。
「名前かよ」
「だってヒカルの名前書きやすいんじゃもん。片仮名じゃし」
「あおだってそうじゃあ」
ヒカルはあたしが書いた『ヒカル』の隣に、『あおい』と書いた。いつも『あお』と呼ばれるからか、少しドキドキする。