i want,
「変わって」
「え、田口君?」

彼は田口のことを知っていたらしい。
小さい背を丸めて段ボールで仕切られた小部屋に入る田口に、あたしも逡巡しながらついていく。

「ここ、俺がいるから」
「え、でも…」
「お前向こう側行って。こんにゃくのとこ」

なんて理不尽で強引なんだろう。こういうとこ、ほんと垣枝にそっくりだ。

お化け役の彼は戸惑った表情をしていたけど、素直に隠し部屋から出ていった。

女子には散々嫌われている田口だけど、何故だか男子からの信頼は厚いらしい。

頭いいし運動もできて、癪だけど顔もいい田口(背は低いけど)。少なからず、男子の憧れの的でもあるみたいだ。

あたしにはさっぱりわかんないけど。


「てか、なん?何でこんなとこ入るんよ」
「矢槙、そんな口聞いていいの?」
「はぁ?何偉そうに…」

と、言いかけたくちをそのままあんぐりと開けた。

振り向いた田口の指の先には、小さな冷蔵庫。

田口がそのドアを開けると、ひんやりと冷たい空気が狭い隠し部屋に動いた。

「なんで!?」
「お化け役、こんな空気薄い部屋で暑いだろ?先生からの差し入れ。たまたまその場にいたからさ」

はい、田口がソーダ味のアイスを差し出す。
「あ…ありがと、」、言いながら、田口にお礼を言っている自分にひどく違和感を感じた。


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