i want,
「あの男の暴力から逃げれるなら、どこでもえぇんじゃろ。最近は金までせびる様になったけぇの」
「離婚したんじゃないの?」
「したわ。ただそれは法的なもんで、実際の生活まで切ってくれるもんじゃないけぇ」

「そんなもんじゃ」、ヒカルはそう呟いた。その声には、悲しみも怒りもない。

ヒカルにとって両親は、その程度の存在なのだ。

「…いいの?」
「何が?」
「ヒカルは、それで」

俺の問いに、ヒカルは顔を向けた。
小さく笑って答える。

「いいも何も、決まったことじゃ」
「残ることだってできるだろ。俺の家に住むことだってできるし…」
「まぁな。でも…」

そこで言葉を切って、宙を見つめた。

いつも思う。ヒカルの横顔は、何故か哀しい。


「…見捨てれんけぇ、あの人」


ヒカルの小さな呟きは、はっきりと部屋に浮かんだ。

俺は驚いて、瞬きを忘れる。

「あの人が俺に対して、曲がった愛情を持っちょることもわかっちょる。あの人のことが大切じゃとも、正直そんなに思わん。けど、」

そこでヒカルは、口角を少し上げて笑った。
哀しい笑顔だった。


「それでも、母親じゃけぇ」


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