i want,


……………


まさかこんな形で地元に帰るなんて、想像すらできなかった。


小さい頃から何度も遊びに行ったさとの家。
それが今、まるで知らない人の家の様に思える。

「…あお、」

玄関の前で立ち止まってしまったあたしの背中を、卓也が押した。
泣き腫らした目が、卓也らしくない。

どこか足元がしっかりしないまま、あたしは玄関へ入った。


慣れない香り。
寂しい音が家中に満ちている。

三人兄弟のさとの家がこんなに寂しかったことは、今までに一度だってなかった。

…やっぱりここは、さとの家じゃない。

心の奥でそう呟き、卓也に促されるまま和室へと向かう。


なんて、リアルな夢なんだろう。


和室の引き戸を開けると、まず白い花が目についた。

黒ばかりを目にしてきたからか、それが異常に眩しい。

部屋の奥にある、沢山の白い花。

その真ん中には、さとの笑顔。


「…さと、」


自分でも驚く程、小さな声で呟いた。

写真の中のさとが返事をくれた気がした。

そんなはず、ないのに。


「…見てやって。神ちゃん、あおにきっと会いたがってる」

卓也があたしの肩を抱いて、前へ進めさせた。

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