i want,

写真の下にある、長い柩。

生まれて初めて、その木の箱を見た。


「この中に…さとが、いるん?」


数歩手前で、あたしは訊いた。
卓也の手に力が入るのがわかる。

声を出せないまま、卓也は力なく頷いた。


否定して、欲しかったのに。


ゆっくりと柩に近付く。
窓のあいた柩の中に、肌色が見えて息がつまる。

きっと嘘だ。
どこかでそう思いながら、柩の中に目を向けた。



「…さと」



目を閉じた、さとがいた。


茶色い髪も、顔立ちも、一年前と殆んど同じさとが。


なのにその目が、開かない。


「…風邪、拗らせたんやって。頭ずっと、痛かったみたいで…でもバイトと授業で、病院には行かんかったらしい。連絡取れんくなったおばさんが心配して、大家さんに部屋見てもらったら…このまんま…ベッドに、寝てたんやって。市販の薬、机に置いたまま…ほんと、眠るみたいに…」

つまりながら、卓也が話す。

あたしはそれを聞きながら、眠るさとを見つめていた。

聞き流してなんかはない。

さとの最後を、しっかり聞きたかったから。

< 330 / 437 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop