i want,
写真の下にある、長い柩。
生まれて初めて、その木の箱を見た。
「この中に…さとが、いるん?」
数歩手前で、あたしは訊いた。
卓也の手に力が入るのがわかる。
声を出せないまま、卓也は力なく頷いた。
否定して、欲しかったのに。
ゆっくりと柩に近付く。
窓のあいた柩の中に、肌色が見えて息がつまる。
きっと嘘だ。
どこかでそう思いながら、柩の中に目を向けた。
「…さと」
目を閉じた、さとがいた。
茶色い髪も、顔立ちも、一年前と殆んど同じさとが。
なのにその目が、開かない。
「…風邪、拗らせたんやって。頭ずっと、痛かったみたいで…でもバイトと授業で、病院には行かんかったらしい。連絡取れんくなったおばさんが心配して、大家さんに部屋見てもらったら…このまんま…ベッドに、寝てたんやって。市販の薬、机に置いたまま…ほんと、眠るみたいに…」
つまりながら、卓也が話す。
あたしはそれを聞きながら、眠るさとを見つめていた。
聞き流してなんかはない。
さとの最後を、しっかり聞きたかったから。