王国ファンタジア【宝玉の民】
「そろそろ起きとくれ!仕事が遅れちまうよ!」
ドアの向こうから声が掛けられた。
威勢の良い、張りのある女性の声。
住み込みで働かせてもらっている配達屋の奥さん―マーリィだ。
「あぁ、今準備して行きます!」
慌ててベットから起き出す。
どうやら、昔の夢を見ていたようだ。
シャツが汗で身体に貼り付いている。
昔の夢を見た日はいつもこうだ。
溜息をつき、仕事着に着替える。
この街では、表向きは配達屋の仕事を手伝って生活している。
要は、盗賊の仕事のカムフラージュといったところである。
あれから数年の刻を経て、ドルメックは25歳になっていた。
実際に仲間の核石を集め始めたのは、18歳…今から7年ほど前からだ。
最近では少しずつ名も売れてきた。
宝石―それも、魔力の籠った石専門の盗賊。
通称[D](ディー)
盗みに入った場所には、必ず自分の名前の頭文字[D]と書いたカードを一枚、残すようにしていた。
その為、盗賊[D]と呼ばれるようになった。
当然、名が知れれば警戒されて仕事がしにくくなる。
しかし、逆に情報は得やすくなるのだ。
『盗賊Dがこの街に現れた』
と情報を流してやれば、魔石を扱う者やコレクターなどは警備を強化してくる。
つまり、自ら魔石を扱っていますと暴露しているようなものだ。
この街での仕事は、粗方終わった。
昨晩、とある宝石商の邸宅に侵入し、仲間の核石を見つけ出した。
他にめぼしい魔石の情報もないはずだ。
そんなことを考えながら、支度を終える。
とりあえずは今日の真っ当なお仕事に出掛けることにした。