雨降りでロリンズ
それを聞くと、男の顔がぱっと輝いた。

「フィノ・アモンティリャードを二つね」

彼は嬉しそうな声でバーテンダーに注文した。

「さて、と」

男はもみ手をしながら、カオリの横顔を覗き込んで言った。

「だけどちょっと意外だな。
あなたみたいな女性がどうして」

「それよりソニー・ロリンズのことを話してよ」

カオリは男の言葉を途中で遮って言った。

「え? ……ああ、そうね」

男は急にうろたえたように視線を宙に泳がせた。

グラスに注がれた飲みものが二人の前に置かれた。

「じゃ、まず乾杯といきますか」

男はグラスを持ち上げたが、
カオリは相手とグラスを合わせず、
それを口へ運んだ。

男がチビチビと舐めるように飲むのを尻目に、
彼女はぐっとふた口であけてしまうと、
軽く音をさせてグラスを置いた。

「ソニー・ロリンズなんて聴いたこともないんでしょう。
それにフィノ・アモンティリャードも初めてなんでしょう?」

横で男が赤くなって視線を落とした。

「すいません」

なんだか可笑しくなって、カオリは笑いだした。
男もつられて笑っていた。

ひと笑いすると、
お腹の中が冷えびえと寒かった。

はぁっ……と、
この世のものとは思えないほどの溜め息をつくと、
カオリは首をすくめて手の平を見た。

窓に目を転じる。
街はまだ雨降りのままだった。

‐了‐
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