365回の軌跡
「とにかくだ!」
父は荒々しくジョッキを置く。
「田舎に戻ってくる気は無いんだな?」
二人ともだいぶお酒を入れていた。私は何度も言った言葉を苦い顔で吐く。
「帰らない!」
父は溜め息をつき、酒を煽る。
私は大きく息を吸うと、まくし立てた。
「お父さんはいつもそうだよ。子供の考えを否定ばっかして。私もう24だよ?自分のことは自分で考えたいの!」
父は私をなだめる様に言う。
「だがお前は女…」
「女だから夢を追っちゃいけないの?冒険しちゃダメなの?私は田舎で暮らすより、都会で独り暮らしして色んな人に出会って、世間や社会に揉みくちゃにされて、強くなりたいだけなの!それに今の仕事や生活にも満足してるし。今が学べる最高の環境だと思ってる。」
私は自分の想いをやっと父に言えた、と思った。言いたいことは予め準備しておいたが、それ以上のことを言えたと感じた。
父は赤ら顔で眉間にシワを寄せ、厳しい顔で下を見ていたが、急にジョッキに手を伸ばすとグイッと一気に残りを飲み干し、店員にしわがれた大きな声で「会計!」と叫んだ。
< 63 / 85 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop