ロ包 ロ孝
 里美が洗脳の【在】(ザイ)を使って、北田の右手を操ったのである。

「んむぐっ! ぐ・んぐっ!」

 目を丸く見開いて、頬をハムスターのように張り詰めさせた北田が慌ててコーラのカップに飛び付く。彼は一気に飲み干すと、息も絶え絶えに言った。

「ぶはっ! ああ、クレープが喉に詰まって危うく呼吸困難で死ぬ所でしたよ。動物操作活性共鳴発声である【在】はオペレーションの時に賊へ向けて放つ物で、賊が武器を持ち出す事態になった時、武器を奪う為に行使するべき物の筈じゃなかったんですか? 全く、酷いなぁ。サトッチは!」

 北田は、抗議も講釈も愚痴も全ていっしょくたにして話すから、結果話が長くなるのだ。

「北ちゃんも食い意地が張ってるのね! 何もそんなに急いで食べなくても、ねぇ?」

「ああ。僕は急いで食べてません! 味わって食べたかったのに、サトッチから無理矢理食べさせられたんですっ」

 残った俺達は笑いを噛み殺してこの光景を見ている。

バトルスーツの一件からこの2人(里美と北田)がかち合うと、いつもひと悶着起きるのが通例となっていた。北田はどうしたってふた言三言多い上、里美を性の対象として見ない分遠慮や気遣いの欠片もないので、必然的に女心を逆撫でしてしまうのだ。

「北ちゃん。大体貴男は乙女心が解っちゃいないのよ。だからアタシの気に障る……」

 里美が喰って掛かるのを往なすように、北田は本来の目的に話を戻す。

「ああ、古内さん。現場の案内をお願い出来ますか」

 古内警部補は「こちらです」と表通りのネオンが届かない、薄暗く狭い小路へ入っていく。里美は頬を膨らませながらも仕方なく後へ続いた。


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