ロ包 ロ孝
 遂に栗原は、人の胴程も有る太い横枝を真っ直ぐ斬り払う事が出来るようになった。その後も術の微調整をして、ケーブルを切断する訓練と発電機を破壊する訓練を終えた。

加えて対賊用に打撃の【皆】(カイ)を連続で放つ修練をした後、明日に備え、早めに宿へ帰る。

「あーあ。月が傘をかぶっちゃってるわねぇ。明日が雨にならないといいんだけど……」

 宿へ向かう道すがら里美が漏らした言葉が、翌日俺達に現実となって訪れる事になる。


───────


 目を覚ました俺は窓を濡らす雨に嫌な胸騒ぎを覚えた。何故なら俺達は今迄雨の中で術を使った事が無いからだ。

音波を使った術にとって、雨音という雑音は極めて邪魔な存在になる。その影響で術がどのような変化を見せるか、全く見当も付かなかったのだ。

「今日は気分を変えて、下の店でイタリアンバイキングにしないか?」

「本当すか? 嬉しいなぁ! ご馳走も毎日同じような物だと飽きちゃいますからね」

 俺はその不安をかき消すべく、宿泊客で賑わっているロビーへと降りた。

日本食や中華料理、ステーキハウスが並ぶその奥に、目指すイタリアンビュッフェ『テスタロッサ』が有る。

「うわぁっ! ここの食事も凄い豪華じゃないすか! しかも種類がハンパない」

 その店には昨晩のご馳走に勝るとも劣らない、バラエティーに富んだメニューが並んでいる。

「いいか栗原、バイキングだからって喰い過ぎないように気を付けろよ?」

「あ、ハイ了解っす。ちゃんと解ってますよぉ、坂本さぁん」

 しかしこうやって釘を刺しておかないと、昨日の轍(テツ)を踏み兼ねない。今日はいよいよ本番だ。俺達に失敗は許されない。


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