ロ包 ロ孝
「はぁ……まぁ……そうですよね」

「人権の尊重だとか疑わしきは罰せずだとか、もうそんな悠長な事は言っていられない。
 日本に在る全ての生命を失わない為には、この暗殺という任務を遂行する以外に方法が無いんだよ」

 そうだ。これは俺達人間だけを守る為じゃない。犬や鳥、木々や雑草に至る迄、自然界全てをも救う事になるのだ。

「それなら余計に俺だって、みんなの力になりたいですよ!」

「気持ちは有り難いがな、それぞれの役割という物を考えなきゃいかん。
 お前は警察と共に法を守っていく立場だ。殺人なんか、しちゃいかんのだ!」

 俺の揺るぎない決意を込めた眼差しに、栗原はとうとう了承した。

「はぁ、解りました。……だけど……俺は里美さんも坂本さんも、日本に残るもんだと思ってたんすよ。
 ……俺ひとりでなんて、やって行けるのかなぁ……」

「お前はこれ迄も立派にやってきたさ。自分じゃ気付いてないけどな。
 ナニ、ちょちょいと片付けてすぐに帰って来る。ちょっとの間だけ辛抱してくれよ」

 俺がそう言って肩を叩くと、彼はさも自信無さげに微笑んだ。


∴◇∴◇∴◇∴


 出発迄あまり時間が無い。俺達は大急ぎで支度を整えなければならなかった。

「荷物は用意出来たか? 忘れ物が無いようにな」

「やだなぁ坂本さん。子供の旅行じゃないんだから、ちゃんと抜かり無いようにやってますって!」

「おやつも300円分しか入れてませんし」

「はっはっ、冗談が言えてるようじゃ余裕だな」

 しかし、そんな安易に事が運ぶだろうか……。経済的に困窮している国だとはいえ、ターゲットは最高指導者だ。マジックショーの最中に、その警備が手薄になるとも思えない。多少の小競り合いは覚悟しなければならないだろう。


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