ロ包 ロ孝
「しかし! うちの女王様達は綺麗好き過ぎて参りますね」

「仕方ないんじゃないですか? 彼女達が居なければ、意思の疎通も叶いませんから、せいぜいご機嫌取っておかないと……」

 腕捲りを下げながら、聞こえよがしに会話をする。綺麗好きな通訳とそのスタッフ達が身内に風呂掃除をさせている事にすれば、それを口実になんとかこうして個別になら話し合いの機会が持てる。

「じゃ、また昼食で」

「お疲れ様でした」

 この通訳とは里美の事だ。彼女は次の敵国をここと定めた時からすぐに言葉を学び始め、何度かの短期留学を行いながら驚異的な早さで海鮮語を習得していた。今回のオペレーションには通訳兼交渉の窓口として、どうしても里美の語学力が必要だった訳だ。

こちらに来てからは里美と会話を交わしていないが、あれこれと忙しく立ち回っている。

今思えば俺は会社人間で、仕事以外はからきし駄目なつまらない男だった。ひとつの事をこなすのがやっとだった俺に引き替え、彼女は会社での仕事も他を圧倒していたし、政府の極秘任務も遂行していた。そして何より、俺の彼女としても完璧にその役割を果たしてくれていたのだ。

「ホント、里美は俺のどこが良くて結婚迄したんだろう」

 全てが明らかになった今、改めてそんな事を考えていた。

「しかし……なんでそんな厳戒態勢が敷かれているんだ? こちら側の情報が漏れているのか……いやまさかな、それは有り得ない」


───────


「一体全体どうしたんですか坂本さん、そんなにたそがれちゃって! 金の相談以外なら自分が乗りますよ?」

 関からの報告を聞いた俺は、また妙な胸騒ぎに襲われていた。その為に余計辛気臭い顔をしていたのだろう、空気を目敏く読み取った渡辺が声を掛けてくる。


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