ロ包 ロ孝
「それに何だかみんな、ヤケにビビってるんですよ。あの関さん達でさえ、結果を出せなかった訳ですし……」

 渡辺はおちゃらけて言うものの、その瞳は笑っていなかった。

「それは仕方ないさ。異国の地に置かれて、任務は暗殺で、しかも相手は総書記だ。
 これで何も感じないと言う方が鈍感だ」

 彼は少し落ち着いたのか、胸の内を吐露する。

「そうですね、実は……今回ばかりはさすがの自分もブルってるんです」

「達っつぁん達は俺のサポートなんだから、もっと気楽にしてればいいんだよ」

 俺は渡辺の肩を抱いて励ました。彼らの気持ちも解るが、その時になって浮き足立たれたら困る。

それに実際手を下すのは俺だ。いくら拭っても拭い切れない罪でこの手を汚すのは、1人だけで十分だ。

だがこの場合、総書記の命を奪った後が最も重要となる。政府のヘリに収容される迄、敵の手を逃れて生き延びねばならない。

「ショーの予定、決まりました。明日です」

 いよいよか。


───────


 俺は個々の攻撃力を上げる為に、裏法との複合技を改めて皆へレクチャーし直した。

「なるほど。【者】(シャ)だけじゃ無いんですね、【玄武】(ゲンブ)と合わせられるのは」

 今迄裏法の存在すら知らなかった彼らは、9倍速のインパクトだけに囚われていたようだ。

「そうだ。まだ【前】(ゼン)と合わせた事は無いんだがな」

「何しろ【前】を実際のオペレーションで使った事が有るのは栗原さんだけですもんね。
 我々も【前】を使わなければならない案件にはまだ出くわしていませんし」

 綿海(ワタミ)のオペレーションで栗原が放った【前】は、音力内でも伝説のように語られていた。

人づてに伝わった話に有りがちな尾ひれが付いた内容で、やれ『ホテルを丸ごと吹き飛ばした』だの、やれ『相手は300人の武装集団だった』だのと、随分派手な武勇伝に仕立て上げられている。


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