ロ包 ロ孝
「凄かったんでしょう? ねぇ坂本さん!」

「ああ、そうだな」

 栗原の立場も有るし、いちいち訂正して回るのも面倒なので、その件については皆の言いたいようにさせているのだ。

「その栗原さんが逆立ちしても敵わないって仰る坂本さんの本気の術が見れるんだから、自分達も幸せですよ」

 みんなは目を輝かせて顔を寄せてくる。ち、近い。

「いや、あくまでも最悪の事態は避けたい。本気を出さなくても逃げ仰せるように、迅速な対応をしていこう」

「解りました」

「表と裏の蠢声操躯法さえ有れば、俺達に敵うやつは居ませんからね!」

「そうだよ、岡崎くん。明日は早いから、もう寝よう」

 そう、たった1人の命を奪えばいいのだ。造作もない。

「お休みなさい」

「失礼しまぁす」

 しかし、そんな普通の会話が出来たのはこれが最後だった。


───────


「!……!!……」

  ガタンッ! ドスドスッ! ドタン!

「……ヤッ!……!」

  ドドドドッ ドタドタッ

 何やら辺りが騒々しい。

「何だ? もう準備を始めるのか?」

 外はまだ暗い。時計は朝の4時を少し過ぎた所だった。

  ガチャッ バタン!

 荒々しくドアが開くと里美が息急(イキセキ)切って飛び込んでくる。

「ハァ、ハァッ淳、ごめんなさい。話している暇は無いわ? 早くここから逃げて!」

 突然そんな事を言われても、俺にはさっぱり意味が解らない。

「どうした、里美。何の冗談だ? こんな朝っぱらから……」

「冗談なんかじゃない。ちゃんと聞いて? あたしはこの国のスパイなの。つまり二重スパイという事ね。
 金 智賢(キム ジヒョン)というのが本当の名前なの」

「なんだってぇ?」

 冗談でなければ何なのだ。俺の頭は最早正常に働いてはくれなかった。


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