ロ包 ロ孝
 心地良い疲労感に包まれて熟睡した翌朝は、いつにも増して爽やかな目覚めだ。

「里美、おはよう」

 そう声を掛けたが、よほど疲れているのか、彼女はまだぐっすりと眠っている。

しかし今日はすこぶる気分がいい。太陽も心なしかいつもより輝いている。……ん?

「さぁ〜とぉ〜みぃ〜! 遅刻だ! 起きろぉ〜!」

 太陽が輝いていたのは気の所為ではなく、かなり昇っていたからだったのだ。俺達は3倍活性共鳴発声の【者】を使ってフルスピードで支度する。2人で声を出していると丁度、オクターブでハモる練習をしている混声コーラスのようだ。

音楽鑑賞する時に周囲の雑音がしないよう、準防音仕様のマンションを買っておいて正解だった。

駅迄はチャリで2人乗りしかないが【者】を使いさえすれば、もし自転車警邏中の警官に見付かっても振り切ればいいし、恐らくパトカーでもかなわない程の機動力は有る。

しかしこのチャリがもつかどうかは怪しい所だ。

「いいか? しっかり掴まれよ? ちゃんと【者】を使うんだぞ」

「いつでもいいわよ? フゥゥゥゥ〜」

 里美が【者】に入った事を確認し、ペダルを踏み込んだ。

  キュキュキュルッ!

 激しくホイルスピンを起こし、煙を立てながら回る後輪があっという間に自転車をトップスピード迄加速する。車やバイクを次々と追越し、難なく駅に到着した。

「これじゃバイクなんか要らないわね」

「このまま会社に行った方が早かったか?」

 時速にして100km弱のスピードは出ていただろう、これがギヤ比の大きいスポーツ車だったら、更に倍は出たに違いない。

「ああ〜っ、淳!」


< 63 / 403 >

この作品をシェア

pagetop