ロ包 ロ孝
 取り敢えず電車で行く事にした俺達だったが、里美が俺の異変に気付いた。

「ズボンがビリビリよ?」

 何? 見ると縫い目がぱっかり割れて、裾もパンタロンのように広がり、ヨレヨレだった。着ていたのが運動に適さないスーツであった事に加え、【者】を使うと筋肉自体も太くなるようだ。上着やワイシャツの縫い目が所々で裂けている。

「会社のロッカーに着替えが2着入っているから大丈夫だよ」

 そうは言ったものの、このスーツは大の『お気に入り』だったのでショックだった。


───────


「お前は玄関から入りなさい」

 会社に着くと俺は、脇から入って貨物用のエレベーターを待った。朝のラッシュ時だ。掃除のパートさん達が各階に散らばる為、1階毎にカゴが止まる。

「ああ、間に合わない!」

 俺はまた【者】を使い、17階迄一気に階段を駆け上がる。

 やった! ギリギリセーフだ。

……ん? 何食わぬ顔でオフィスに入った俺を、奇異な物を見るかのような視線が包む。

「坂本主任。外では内乱でも始まったのかね?」

 営業に出る前に身だしなみをチェックする姿見に映った自分を見る。髪の毛は逆立ち、スーツは破れ、スラックスはぼろきれのようだ。「なる程、小倉部長もウマイ事を言うな」と思った。

……そんな悠長に構えている場合じゃない!

「すいません! すぐ着替えて来ます!」

 一体何の為に貨物用エレベーターで上がって来ようとしたんだか……人目に付かないように裏からロッカールームに入る為だったのに!

【者】を使うとうっかりも3倍に活性されてしまうようだ。


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