ロ包 ロ孝
「なぁに、力を抜いて放てばいいんじゃ。全力を出したらそれこそ大変な事になるじゃろうが……、ここは高倉家の山だからの。誰も文句は言いやせんわい! さ、どれどれ」

 祖父は数歩前に進んで足元を踏み固めると、突然真顔になって気合いを入れ始めた。

「ぬぅうぉおおおお……」

 すると地響きが辺りの空気を揺らし出す。小鳥達は木々を飛び立ち、群れをなして右往左往している。

  バチッ パチッ

 鋭い音を立て、祖父の周りで細かい放電が起きる。

「コォォォオオオ」

 全ての空気が吸い尽くされたと錯覚する程、祖父は息を吸い込み……。

「ザッ!」

 短く発声する。

その途端、俺には祖父の口から破壊の龍が飛び出すように見えた。龍は土煙と共に山肌を駆け昇り、その先に有った杉の木立を次々と薙ぎ倒し、山頂迄の一本道をあっという間に作ってしまった。

「……す、凄い……」

 俺は余りの衝撃に暫らく口がきけず、やっとの思いで言葉を絞り出した。

「どうじゃ、少しはこの爺の事を見直したじゃろう」

 祖父は精一杯その小さな身体を反らせて威張っている。これだけの術を披露したのだ、その気持ちも解る。

「す、少しどころじゃないよ、爺ちゃん。これでも力を抑えてるんだろう?」

 俺は湧き上がる興奮を抑え切れず祖父に抱き付いていた。

「ッホホ、よさんか淳。そうじゃな、全力の五割位かの。それに幅を狭めて放ったから、少し派手さには欠けておる」

 全力で、しかも広域に放った時の事を考え俺はぞっとした。もし街なかでこれを使ったら……その場はまさに『地獄絵図』と化すだろう。


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