王国ファンタジア【流浪の民】

命とアップルパイ

「あんさん、随分と頑張ってるやん」
「……」

 宿舎の通路を歩くベリルを誰かが突然、呼び止めた。

 それに、さして驚く事も無くベリルはその人物を横目で見る。

 声からして女性、少女のようにも感じられる。

「なんでそないに気張ってんの? ドラゴンに恨みでもあるんか?」

 ベリルは向き直りもせず、目を据わらせて応えた。

「無くてはならんのか?」

「いや、普通あるやろ。そんだけ必死になる理由って」

 その問いかけに、ベリルはようやく彼女に体を向けた。

「倒したい。というだけではいけないかね?」

 フードを目深(まぶか)に被った姿。その姿にも、ベリルは何の反応も示さなかった。

 むしろ、動揺しているのは彼女の方だった。

「……」

 倒したいってだけで、こないに色々やるんか?
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