王国ファンタジア【流浪の民】
 いくらベリルが皿の上のクッキーを食べたからって、彼自身が持ってきたクッキー。

 毒の入っていないクッキーを手にする事も出来たのに。

 激しい警戒心を持つレインにしては、いささか抜けている。

 少年は、無意識に彼らを信用していた事に気付いていなかった。

 彼が民の代表として討伐に参加した経緯……それを知る処ではないが、何か大きな理由があるに違いない。

 それは決して、快いものではないはずだ。

 彼が人に頼る者ではない事も解っている。

「じゃ、俺たちもそろそろ行くか」
「そうだな」

 片付けを終えたベリルに、セシエルは立ち上がる。

「ベリル」
「ん?」

 ドルメックは少しためらって、

「その……色々と面倒というか、世話をかけたな」

 ベリルはその言葉に、柔らかな笑顔を見せる。

 言葉はいらなかった。
< 240 / 246 >

この作品をシェア

pagetop