薔薇とアリスと2人の王子
 人魚の男に向かってイヴァンが誰だ、と訝しげに言ってやった。それにエルザが答える。

「私の仲間だった奴。ルートヴィヒっていうんだ」
「素直に恋人って言ってよ、エルザー」
「ばかっ、な、何言うんだ!」

 エルザに咎められたルートヴィヒは不満げに口を尖らせてね。何か言いたげだったけど、結局口を結んでいた。
 アリス達にもなんとなく2人の関係が分かったんだ。

「も、もうお前は海に戻れ」

 エルザがルートヴィヒから顔を逸らして言い放った。

「どうしてだよっ! やっとお前を見つけたのに」
「私はもう人間として生きるんだ、お前が来たって何の意味もない」

 そう言いきられてしまえば返す言葉も無くてね。ついにルートヴィヒは名残惜しそうに海の中へ潜っていった。
 きっとエルザに何を言っても無理だと思ったんだね。

「エルザ今の……」

 アリスが遠慮がちにエルザに声をかける。

「嘘に決まってるだろ。人間として生きるなんて」
「彼には人魚に戻れる方法があることを言ってないの?」

 アリスの言葉にエルザはすこし顔を伏せた。彼女の頬は赤く染まっていてね。おや、とアリス達が思ったとき、

「……恥ずかしいだろっ。ルートヴィヒの元に戻れることを楽しみにしてるみたいで」

 と、エルザが早口に言い切った。

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