薔薇とアリスと2人の王子
「ようこそドナウアー家の城へ! わたくし、城主の妻でございます。イディとお呼び下さいな」

 入口の扉から飛び出してくるように女性はやって来てね。
 なぜか熱烈に歓迎されて、さすがの兄弟も尻込みしてる。

「ああ、僕らただの通りすがりなので、お構い無く!」

 はは、と笑って誤魔化して逃げようと試みたカールだったけど、首根っこをイヴァンに捕まれて阻止されちゃったんだ。

「何するんですか」

 と抵抗する弟の耳元で、イヴァンは小言で言った。

「馬鹿者! 逃げてどうする、逃げて。アリスを助けに来たんじゃないのか」

 するとムッとしてカールが答えた。こちらも小言だ。マダム・イディに聞こえないようにね。

「そりゃアリスは助けますよ。でも奥さんに見つかった以上、城に入っても自由に探せないじゃないですか。それなら一度逃げて、後からコッソリ侵入するべきです」

 でしょ?と軽口を叩くカールだったけど、それもまたイヴァンに馬鹿! と罵られた。


「墓穴に入らずんば虎児を得ず、と言うだろう!」

「それを言うなら虎穴(こけつ)です。……まぁ、兄さんがそこまで言うなら、奥さんに甘えて入城しましょうか。」


 そう話をつけた2人は、マダム・イディに招待されるがまま城に足を踏み入れた。
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