薔薇とアリスと2人の王子
 靴の音をたてないように、アリスは慎重に螺旋階段を降りていく。少し前を城主のドナウアー氏が同じく階段を降りていた。

 息をひそめてアリスが城主の動向を追っていると、彼は懐から薄暗い階段でもきらめく鍵を取り出したんだ。

(金の鍵……? あれが地下室の鍵なのね……)

 階段は地下に到着した。

 赤茶色に錆びた扉が不気味な雰囲気をたずさえていてさ。
 ドナウアー氏が扉の鍵を開ける。彼はそのまま地下室に入ると、扉を閉めてしまったよ。


 残念だけど、尾行はおしまいだ。鍵がないアリスは地下室に入れないからね。


(一回上に戻って隠れ場所を探していよう……。ロサ・アンジェラだけはなんとしてでも取り返さなきゃ……)

 と、開かない扉の前で思ったときだった。

 バン! と地下室の扉がアリスの目の前で勢いよく開けられ、城主がそこに立っていた。

「小さいお嬢さん。探検はもうおしまいだ」

 ドナウアー氏は地を這うような声でそう言うと、顔面蒼白のアリスを地下室に無理やり引き込んだ。


 ばたん、とアリスの背後で再び扉が閉まった。それがアリスには、この世の終わりのような音に、聞こえたんだ。


< 236 / 239 >

この作品をシェア

pagetop