クロスロード

―――……


「えー、じゃあ今日はこれで終わる」


のんびりとした口調の先生はファイルを手に持ち教壇を降りた。

それと同時にガタガタッと椅子を引く音が教室中に響く。

部活に行く人、家に帰る人、それぞれ皆走るように教室を抜けて行く。


私も例外なく椅子から立ち上がり机の横にかけていた鞄を手にした。

時間は15時過ぎ。いつもと変わらない、普通の放課後。

敢えて違う点を指摘するとしたら――…そう。待ち合わせしている、ということ。


「柚、じゃああたし帰るね!」

「あっ、うん……」


バイバイ、と笑顔の真菜に私もつられて笑顔を見せる。

大半の人が教室を出て行き、日高君の姿も見えない。

珍しいなあ。いつもは教室に残って『部活だりー!』とか騒いでいるのに。

……って、日高君は今はいいとして。


「っ、行かなきゃ」


廊下に出て隣のクラスを除くと、そこは既に蛻(もぬけ)のカラ。

生徒の波にのみ込まれながらも必死で昇降口まで走り、3年の靴箱へ足を運ぶ。



そういえば……昇降口で待ち合わせなんて、誰かに見られたら私達のこと怪しまれるかな。

婚約を隠したいと彼に頼んだのは私。



……でも、最近思うんだ。

あの電話以来、ううん、もっと前からかもしれない。



翠君と私の事、秘密にしときたくないって――…
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