クロスロード
騒がれるのが嫌で隠し通そうとした『婚約関係』
だけど他は女の子に人気があって、きっと本気で恋をしている子だっているはず。
もし、もしも彼に婚約者がいると分かったら、――翠君は私だけのものでいてくれる?
「……っこんなこと思うなんて変だよ……」
はあ、と浅く溜め息を吐き、軽く自分の頬を叩いた。
これから一緒に峰さんの家に行くのに、こんなんじゃだめだよ。
小さな決意をしながら昇降口で翠君の姿を捜す。
1組、2組……そして5組と6組の靴箱へさしかかった時、壁に背を預けている翠君が視界に映った。
「……あっ、翠君」
私の声に翠君がこっちを振り向く。
茶色の髪が太陽のせいでいつもより明るく見える。
肌は透き通るように白くて、身体だってきっと私より細い。
絵になるのってこういう人のことを言うんだろうな……
そんな人の婚約者が私って、釣り合わないにも程がある。
「何ボーっとしてんの?」
「っご、ごめん」
「行くよ」
壁から身体を離し、5組の靴箱からローファーを取り出す。
私も慌てて靴を履き替え彼の後を追うと、昇降口には何人かの生徒がいることが目についた。
副会長として校内で顔が知られている翠君には自動的に視線が集まる。