クロスロード
「何がしたいわけ」
「……い」
「は?」
「キス、してほしい、……です」
……口に出すのは躊躇していたものの、問われればあっさり答える私の神経。
どうなってるんだろう、と自分でも呆れてしまうほど。
夕闇に染まっていく資料室の中、何とも言えない空気が流れ込んだ。
語尾に敬語をつけて恥ずかしさを消す、という微妙な感情も含めて。
「……し、て」
至近距離でくいっとブレザーを引っ張る。
すると、私の顔の横についていた片手を本棚から離して顎に指先を絡ませた。
微かに上を向かされ、無頓着な瞳と視線が重なる。
「噂、流れても知らないから」
その言葉を最後に途切れる会話。
目を閉じる間もなく触れた唇が、体温と同じくらい冷たくて吃驚する。
「……っぅ、」
そういえば前にしたのっていつだっけ……あ、婚約してからしてなかったんだった……
重ねるだけのキスはすぐに熱が離れ、ぼんやりとした視界にはいつもの無表情が映った。