クロスロード
……したかったのは私だけ?
催促したから、しょうがなくしてくれた?
どろどろ湧き上がるネガティブ思考。
「……っやだっ、まだだめっ」
私から離れようとした翠君の腕を掴み、行き手を拒んだ。
顰めた顔をする彼が見えたけど自分の欲望が勝ってしまう。
「これじゃ足りない……っ」
―――婚約してから数ヶ月、何もなかったことに寂しさを感じなかったわけがない。
甘い時間を共有できたのなんて、婚約前日の夜だけで。
一回知ってしまったら最後。
あの時の私の予想通り、再び求めてしまう自分がいた。
私の言葉が生暖かい風の中に消えた直後、すっと後頭部に手を回される。
コツン、と額がぶつかる音。
茶色がかかった瞳に映ったのは、見たこともない私の表情だった。
「み、どりく……」
お互いの吐息が聞こえるくらい近い距離、勿論心臓はバクバクで。
翠君が顔を近づけた時、瞬時に瞼を閉じて彼を待った。