アリスとウサギ

 動揺したからか、頭をはたいた軽い衝撃からか、アリスはテーブルまであと少しというところでつまづいてしまった。

 転ばないように何かに掴まりたいが、アリスに見えているのはウサギの幻覚だけ。

 幻覚でも見えているのだから、本能はしがみつこうと手を伸ばした。

 そして、バランスを崩した体がいよいよ転倒しようというとき、伸ばした手は空を切り、手ごたえを感じることはなかった。

 その代わり、顔に、胸に、背中に、ぶつかったような触覚が走る。

 目の前は視覚では何もとらえられない。

 嗅覚は濃厚な香りを関知した。

 サムライだ。

「大丈夫か?」

 聴覚はハスキーな甘い声を胸に届ける。

 声はキュッと心を鷲掴みにしてじわじわと胸を痛めた。

 視覚で確認したい。

 覚えのあるそれらの正体が、本当に彼であるのかを。

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