アリスとウサギ

 期待してはいけない。

 アリスはずっと自分にそう言い聞かせてきた。

 期待しては裏切られ、心を痛めてきた。

 涙を滲ませてきた。

 これを最後の期待にしたい。

 アリスはプリン片手に病室へと歩みを進める。

 階段を上ると少し息が切れた。

 ドクドクと強い鼓動を感じるが、階段によるものか緊張によるものかの判断は付かない。

 階段を上って左。

 302号室。

 スライド式扉の窓を覗くと、ベッド周りのカーテンが閉められている。

 眠っているかもしれないと、音を立てずに扉を開ける。

 10センチほど開けたところで、男女の笑い声が聞こえた。

 声の質や低さから、ウサギとアヤのものだとすぐにわかった。

「家のこと、奈々子ちゃんには話さないの?」

「あいつに話す必要ないだろ。俺はもうあの家の人間じゃないんだよ」

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