アリスとウサギ

 10センチの隙間からそっとプリンを室内に置き、再び音を立てないようにドアを閉めた。

 できるだけ足音がしないように歩き出すと、すれ違う看護士に「こんにちは」と挨拶をされた。

 会釈だけで返し、そそくさと階段を降りる。

 もどかしい二重の自動ドアを飛び出し外の空気を吸い込むと、秋晴れの青空に白くて薄い雲が浮かんでいた。

 見上げたままでいると、雲が滲む。

 今日は小春日和だと携帯の天気予報に書いてあったのに、アリスのこめかみに滴が流れた。

 やっぱり期待は裏切られた。

 きっとこれが最後。

 もう期待なんてできないから。

 あたしはダメなんだって。

 相手にならないんだって。

 だからアヤさんと、早く結婚したいんだって。

 アリスは病院の入り口で、声を上げずに泣いた。

 たまにしゃくり上げ、唇を振るわせながら。

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