アリスとウサギ

 心がこんなに痛むのに、この病院の医者に治療してもらうこともできない。

 あの腕を怪我している少年も、晴れた空のもとを穏やかな顔をして歩いているというのに。

 柔らかなこの風景に順応したい。

 穏やかな顔をしたい。

 そうは思うが、重くなってしまった瞼はなかなか完全に開いてはくれないようだ。

 一旦深呼吸をして、頭の中の酸素を入れ替えてみた。

 吐く息は熱く、まるでウサギへの気持ちの余熱。

 毒を吐き出すつもりで、吸う・吐く・吐く。

 そして無理矢理にポジティブシンキング。

 そもそもウサギは女ったらしの最低男だった。

 毎日違う女を持ち帰る、節操のないタラシウサギ。

 やっぱりそんな奴に捕まらなくて良かった。

 始まる前に終わってしまって良かった。

 ウサギに仕掛けられた罠からやっと抜け出せる、めでたい傷心なのだ。

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