アリスとウサギ

 無理に考えると、虚しくなった。

 高校時代弓道部、負けた後で「自分たちの時ばかり風が強かった」などと不満を漏らす嫌な女子生徒と自分が重なったのだ。

 でも今ならわかる。

 きっと彼女は不満を言うことによって心のバランスを取っていた。

 そして、誰よりも悔しがっていたのだ――と。

 アリスはやっと歩き出す。

 例えば、すべすべした肌の触感。

 サムライの香り。

 イヤミに右端を上げて笑うにやけ顔。

 オレンジジュースの味。

 そして、ハスキーな声。

 奈々子と呼ぶ、甘い声。

 五感全てが彼を鮮明に再現して、また目頭がツーンとした。



 この日のバイトは夜10時で終了。

 それから早苗と待ち合わせ、居酒屋通りへ繰り出した。


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