アリスとウサギ

「でも、まだ忘れられないんでしょ?」

 早苗の言葉に涙は溢れ、手元のおしぼりで目を押さえる。

 悔しいが、忘れられないのは事実。

 プロポーズされたアヤ本人はその気はないとハッキリ言うから、最後にしたはずの悪い癖がくすぶる。

 それをググッと押さえ込んで、グラスを空けた。

 アヤはグラスを受け取り、新しく何かを作り出す。

「啓介、明日もう一日入院するわよ」

「え? 検査結果、まだ出てないんですか?」

「出たの。出た上で、もう一日」

 スッと新しいグラスが差し出された。

 中身はオレンジジュース。

 甘酸っぱい中でほんのり苦い、ウサギへの気持ちの味がする。

「お見舞い行ってあげてね」

 アリスは返事もせずにオレンジジュースを味わった。


< 160 / 333 >

この作品をシェア

pagetop