蒼月の燕
「あちゃ〜、ハデにやったわねぇ」
学園診療室に入るなり、魔法医であるティアリー・ヒュールッドは呆れたように肩を竦めた。
「…今夜の獲物は手強かったですわ。自慢のグリムリバーが全く効かなかったもの」
「で、高位魔法に手を出したわけね」
ティアリーは薬品棚から消毒液とガーゼ、そして治癒魔法用の苻石を取り出してリアの前に腰掛けた。
「…もう報告が来てるんですか…。迂闊な行動はできませんわね」
リアは呆れたようにため息をつく。そんなリアの姿を見て、ティアリーは頬を緩ませた。
「染みるわよー? 覚悟はいい?」
「…どのくらい?」
「とびっきり染みるわ。あなたのビーム魔法と同じくらいにね」
言いながらガーゼを右手に当てると、リアは痛みに堪えるように歯を食いしばった。
「…似ているわ。やはり血筋ね」
「…祖父の事ですか」
「いいえ、お母様の方よ。あ、勿論、先代の学園長であるお祖父様の事でもあるけど」
ティアリーは意味深に微笑むと、苻石を取り出して詠唱を始めた。

「…成れ」
詠唱は数十秒ほどで終わった。
「これで痛みはなくなるはずよ。ただ生傷は癒えないから、あまり無理しないようにね」
「…はい、ありがとうございました」
リアは制服の上着を羽織り、一礼して席を立つ。
診療室を出ようとした、その時。
「イルミナ館に学園史があったはずよ。気になるんだったら見てみたら?」
「…行ってみます」
もう一度一礼して、今度こそ診療室を後にした。
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