幸せのカケラ
「あなた、ありがとう」

「何が?」

「あなたが優しいから、私は毎日、笑って過ごす事ができるのよ」






控えめに落とされた店の照明。

そのオレンジ色が、白い肌にほのかに反射して、君の笑顔を際立たせる。






綺麗だな、と感じる。


君と知り合ってから、6年以上経つけれど、未だに僕は君を綺麗だと思う。


母親になってから、更に。




口下手な僕には、絶対に面と向かって君に言えない台詞だけど。



「本当に、ありがとう」

「僕は、何もしていないよ」


照れ隠しに僕は、グラスに残ったワインを一気に飲み下した。










店を出た頃、時間は午後8時を回っていた。


更に冷えた空気に君は身震いしながら、ブーツを履いて来て良かったと笑った。



「使う?」


首に掛けた、マフラーを君に差し出した。

君が選んでくれた、上質なウールの、灰色のマフラー。



「でも、あなたが寒いじゃない」

「僕は平気だよ、コートの襟を立てれば暖かいし」



そう?と、君は遠慮がちにマフラーを受け取り、首に巻き付けた。


それから小さく笑った。


少女の様に無垢な笑み。


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