窓に灯

「あの……」

 恵里と似たような格好をしている(と言っても恵里の方がよっぽど綺麗だが)見慣れた店員に声をかけると、

「ああ、桐原さんの彼氏さん。どうされたんですかぁ?」

 と、高くてデカい声で返ってきた。

 恵里も毎日このテンションで仕事をしているのだろう。

「また鍵忘れちゃって」

「あはは、またですかぁ。でも桐原さん、3時に上がりましたよ。もう帰ってるか遊んでるんじゃないかなぁ?」

「あ、そうですか。じゃ、連絡してみます」

 おかしいな。

 さっき電話出なかったのに。

 頭によぎったのはあの男。

 まさか、あいつと一緒にいるなんてこと……。

「たぶん今日も遅くなる」

 今朝の恵里のセリフ。

 仕事はもう終わっているはずなのに。

 エスカレーターの途中には7月からのバーゲンを告知するチラシが貼られている。

 それでももう、何を信じていいのかわからない。

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