恋せよ乙女

だけど焦りすぎたせいか、箱の中の工具がカチャリと音を立てる。しまった、と思う間も無く、階段を上ろうとしていた鈴木さんの視線は、物影で蹲るあたしを捉えて。


「何してるの、こんなところで。」


感情無くかけられた問いに、恐る恐る視線を彼女に向けた。


「何って、別に………」

「そう。」


かけられた問いに、曖昧に答えてはみたけれど。案の定、鈴木さんがそんな答えに納得する訳もなく、真っすぐな瞳は未だにあたしを見つめている。
それに堪えられなくなり、あたしの方から視線を外した。

――でも、まさか。
まさか、あなたと顔を合わせたくなくて隠れました、だなんて、そんなことは絶対に言えない。確かにその通りなのだけれど、向き合いたくなくて逃げただなんて、彼女に思われたくはない。

そんなあたしの本音を悟られないよう、早くこの場から抜け出したくて。足元に置いていた箱を持ち勢い良く立ち上がってすぐ、あたしは鈴木さんに背を向け歩きだした。
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