恋せよ乙女
「氷室、さんが……? あたしのために?」
「そうよ、きっと。」
どきどきする胸を押さえるように、右手を胸元に添える。そして、ゆっくりと息を吐き出しながら目を伏せれば、脳裏にあの日の様子がまざまざと映し出された。
……そしてふと、思い出した違和感。
あの時はほとんど…否、全く気にしてはいなかったけれど、改めて思い返せば、思い当たる節が無い訳ではない。
あの日この店に来る前、時間を気にして確認していたことや、やけに急いだ足取りだったこと、とか。
…――それは、この店を予約していたから。
本当に自惚れだけれど、そう考えれば説明もつくし、納得もできる。
「ねえ、紫音。」
唇を噛み締め、色々考えながら黙ったまま俯くあたしは、世奈の声によって思考の渦から引き戻された。