レクイエム
「そういうわけだから。チェックアウトも済ませていてちょうだい。クレンスにも会いたくないし、私はもうこのまま行くわ」


彼に何か言われる前にとナキはすぐさま背中を向け、皆と逆方向に歩き出した。


「嬢ちゃん」


引き止めるように呼ぶ声に、ナキは肩を跳ねさせた。でも彼らとは別れなければいけないんだと、自分にもう一度言い聞かせ、振り切るように走り出した。
目頭がじんと熱くなるのも気付かない振りをして、零れる涙を汗と紛らせる為にも全速力で走った。
どこに向かってるかなんて分からない。ただ、走り続けた。
やがて行き止まりにつき当たり、そこでようやく足を止めた。
いつの間にか閑散とした人通りのない路地裏まで来ていたらしい。
肩で息をしながらその場で座り込んでしまった。

彼らは皆家族同然だった。その彼らと別離して、心にぽっかり穴が開いたようだ。
自分が魔族だと知らされた時よりも、胸が抉れるような感情が伴う。ぽろぽろ零れる涙が止まらない。
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