レクイエム
「泣くくらいならあそこまで言わなきゃ良かっただろう」


いつから付いて来ていたのだろうか、アレスが屋根の上からナキの前に降り立った。
騒ぎが起こらなかった所を見ると、クレンスを迎えに行った仲間達と鉢合わせする前に、彼は宿から出て目立たない所で一部始終を見ていたらしい。

足を抱えて座り込むナキは、顔を伏せたまま答えない。


「まぁあいつらの負の感情は美味かったけどな」


人の不幸が魔族の糧とは言え美味いなどと、何て不謹慎な男だ。弾かれるように顔を上げ、充血で真っ赤な瞳で彼を睨みつける。


「負の感情がでかければでかい程美味い。それだけお前に見放されるのがあいつらも悲しかったって訳だ」

「っ…」


何だ。
アレスはアレスなりに励ましてくれているんだ。それに比べて私は自分の事だけで、仲間達の気持ちまで気が回らなかった。
それが急に恥ずかしく思えて、また顔を伏せてしまった。
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