ポケットの恋
「……なんでいんのよ」
真実は心底嫌そうに言った。
「いちゃダメー?客だよ。ちゃんと店に金落としてるよ」
「生々しいこというな」
「べーつーにー」
ストローを口に加えて、アイスコーヒーをぶくぶくやりながら、古谷は投げやりに答える。
ぶくぶくやっていた割にしっかり聞き取れたらしい。
真実がつっかかってきた。
「何が別になのよ。ってか汚いからやめろ!他の客に不快感与えるでしょ!まぁあんたの存在そのものが不快だけどー」
「じゃあ…真実に逢いたかったから…」
"真実に逢いたかったから"の部分を気取って良い声にして答えた。
案の定、真実は最高にひいた顔になる。
「殴ったらクビ殴ったらクビ殴ったらクビ殴ったらクビ…」
「ちょっ…恐ろしいこと唱えないでよ!」
「はっ!あんたには客って以外の価値はないのよ!」
真実は勝ち誇ったように言い放ち、それから焦ったように店内を見回した。
少し大きめに出た声が周囲に聞こえていないか気にしたらしい。
微妙な時間帯で店内は空いていた。
真実の声が届く範囲に客は座っていない。
大丈夫だと判断して、真実は古谷に向き直った。
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