夜  話  
「都を想っては哀しみに囚われるあの方を、せめて慰めてさしあげるだけの器量がわたしにあれば良かったのに……………。」


青くはかない、小さな都忘れの花をいとおしそうに胸に抱き、女は音もなく立ち上がった。


「あの方に触れることも、かなわぬ我が身なれば、せめてこの花をあの方と思うて帰ろう。」


大事に、大事に腕のなかに抱きこんだ花に慈しむような視線を落とし、女はふらりと踏み出した。


「あの方を待つ間、引き止めてすまなかったな。
わたしは帰る。
物怪も、おまえの世界へ戻れよ。」
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