夜  話  
だが。


すでに庭の先まで歩みを進めていた女は、そこで振り向くと初めて、俺の顔をまともに見た。


そうして、天子の心をも虜にしてしまうような輝く笑顔を俺に向けて言った。


「深衣。」



「……………え?」



初めて、俺に向けて発せられた女の言葉の意味を掴みかねて、俺は間抜けな顔で聞き返した。


「深き衣と書いて、みい、だ。
その名の通りに、あの方を深く包み込む事が出来れば本望なのだがな。」


清廉な、澄み透る笑みを豊かに降り注ぐ月光の下に惜し気もなくさらして、深衣は俺から言葉をというものを奪い去った。
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