追憶 ―箱庭の境界―


にゃあ…!
『だって、退屈じゃない!』

「………。」

『ねぇ、聞いてるの!?言い訳位は聞きなさいよ!』

黒猫は、床の上。
机の上で作業する青年を恨めしそうに見上げていた。


『ねえったら!どれだけ無視したら気が済むのよ!子供ね!』

黒猫に見向きもしない青年に対し、猫は椅子に座る青年の足に爪を立てていた。


「また勝手に『人の姿』になった罰ですよ。しばらくは、その姿で反省なさい。」

青年の冷ややかな言葉に、猫は「ツン」と顔を反らす。
床からベッドの上へ飛び乗ると、ふて腐れて身を丸めた。


にゃぁ…
『…とか何とか言って…貴方が机の上で今作ってるのは、あたしの変身用の薬でしょ?匂いで解るわよ…』

「…えぇ、『緊急用』のこの薬を、僕に何度作らせれば気が済むんでしょうね?」


本来、魔術で動物を人の姿にする場合、術者が対象者に直接行わなくてはならない。
其れしか方法は無いと、此の世の中の常識とされている事だ。

では何故、
青年の知らぬところで黒猫は「人の姿」になっていたのか。

其の答えが、
青年と猫の言う『緊急用の薬』だった。


青年は頭の回転が良い。
理屈をこねる事も、理論付ける事も得意。

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