追憶 ―箱庭の境界―
元々持っていた素質に加え、
此の数年、
魔術の研究に没頭した結果が生んだ、賜物である。
ある薬草を煎じた液体に、魔力を吸収させる術を掛ける。
其の液体に向け、普段なら黒猫に掛ける術を込める。
そして、
術者の「血」を数滴。
「…全く…。僕は何度、指を切って血を流せば良いのでしょうね…」
『あら。貴方の甘い血の匂い、好きよ?いいでしょ、もう小さな傷なんて幾らでも治せちゃうんだから。』
幾重にも魔術が込められた、
赤い液体。
世に出回ってもいなければ、此の術を公表するつもりも無い。
(…能ある鷹は爪を隠す。何かの文献で読みしたね…)
自分の目的を果たす為に必要な、自分だけが持つ「力」。
青年は幼き頃に欲したものを、着々と身に付けてきた。
にゃぁ…
『…ところで、また貴方「アン」て呼んだでしょ。』
「…はい?貴女の名前は『アン』でしょう?」
黒猫と出逢った際、
「好きに呼んで」と確かに彼女は言った。
『人の姿の時は「アンネ」って呼んで。そんな猫みたいな安易な名前で呼ばないで!』
(…だって、猫でしょう?)
自尊心が強い彼女は、何故か自分が猫である事を嫌った。