なんでも屋 神…第一幕
「一葉、何処か行きたい所あるか?それとも、少し早いけど飯でも食いに行く?」



意外な一葉の返事に、服を着込んで家を出た。



「はいよ。本当にこんなので良いのか?」



メットを一つ一葉に渡すと、満足そうな顔で頷く。バイクで街を流したいって…欲の無い奴。



俺の身体に腕を回し、後ろから強く抱きしめる一葉。微量な甘い香水の匂いが鼻へ届く。



冷たい風が通り過ぎる中、冬に向けて準備を始めている街中をバイクで流す。何時も何気なく出来ていた事で、今は不思議と和む。



「こんな時しか、外で抱きつけるなんて出来ないからね!」



信号待ちで一葉の声が耳を掠める…幸せな時間。今は、一葉の気持ちが素直に嬉しく感じる。



…幸せな時間の終わり。仕事の時間が迫る。



一葉を家まで送り、急いで家まで戻って部屋に駆け込み、着ていたダウンをベットに放り投げ、ベレッタの弾を確認し、伊達眼鏡を持って慌ただしく家を出てタクシーに飛び乗った。
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