ブラッティ・エンジェル
 やはり、サヨはそこにいた。暗い隙間に一段と輝く金髪。
 苦しいのか、サヨは壁に寄りかかり肩を上下していた。
「どこか、悪いの?」
「…天使は、体を壊さないの。きっと、疲れね。大丈夫」
そうと言うが、大丈夫そうには見えなかった。息も荒く、声も掠れて出ていない。
「大丈夫じゃないだろ」
「…」
サヨは眉を寄せた。まるでなにかを堪えるように。下唇を噛みしめているその顔は、体の苦しさからではないような気がした。
「サヨ、今日はもう休んだ方が…」
「やめてよね」
落ち着いた寂しげな声。表情はそっぽを向かれわからない。
「そうやって、心配するの。ウザイの」
「え?」
あまりにも突然すぎた言葉に、望の頭は真っ白になった。見開かれた目にはサヨがどのように映っているのだろう?
「私、あなたが嫌いなの」
絞り出すようなサヨの声。抽象も例えもないストレートな言葉。
「え?サヨ、どういうこと?」
望にはなにもわからなかった。ただ、サヨの言葉がそのまま胸に刺さるだけ。
 そっぽを向いていたサヨが、振り返る。その顔にはいつものサヨはしないような、人をバカにしたような笑みがあった。
「そのままの意味よ。そんな事もわかんないわけ?
 人間と天使が結ばれるわけないじゃん」
「サヨ…」
「なれなれしく呼ばないでよ!」
悲鳴のような叫び声。
「まだ気づかないの?あんたが嫌い!ちょっと遊んでただけよ。噂の目を持つ人間はどんなやつか、興味があっただけ。それだけなの。もう、飽きたからあんたにわざわざお別れを言いにきたのよ」
一気にサヨはそうまくし立てるサヨは、痛々しかった。とても苦しそうで、胸が痛くなる。
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